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英国の二十世紀の大半が保守党の時代であり、その保守党の真骨頂は、「維持するためには(生き残るには)変革しなければならない」ということにある、と言われることにも端的に現れている。
ここでは、「変化に柔軟」な英国の保守の真骨頂について焦点を当ててみたい。
英国には憲法がないとしばしば言われる。
正確には、憲法はあるのだが、普通の国のようにまとまった一つの憲法典として存在しない。
憲法というのは国家という巨大かつ強大な組織の運営方法、その構成員の権利、義務を示すものであり、言わば「国家の有り様」を決めるものであるから、「憲法を一つのまとまった憲法典として存在させない」という英国の態度は、それ自体が、英国の「国家の有り様」である。
それは、また、英国の人々の考え方の有り様をも深く規定している。
では、英国において憲法を構成しているとされているものは何かというと、国王大権がある。
国王が、自らの権能として、議会の承認なくできることを規定したものであり、議会の召集・解散、大臣の任免、戦争の布告などが含まれるが、今日では、その大半が、民主的に選挙された首相によって行使される。
成文法である。
議会の審議を経て成立した法律であり、例えば、議会の任期を5年と定めた法律や、あるいはEUの法律を国内で実施するために制定された法律などが含まれる。
コモンローである。
コモンローは特に人権を保護するという憲法の持つ重要な一面において、その真価を発揮してきた。
第四に慣習が上げられる。
厳密な意味では法的に強制力がないものの、長い歴史の中で伝統として積み重ねられてきたという意味で、後世の人間を拘束するとされている。
例えば、前掲の国王大権を国王ではなく首相が行使すること、議会の多数党が内閣を構成しその党首が首相に就任すること、あるいは、議員は議会では嘘をついてはいけないというのも慣習として憲法の一部を構成すると理解されている。
即ち「国家の有り様」を定める規定が国王大権、成文法、コモンロー、慣習の中に散らばっているということになる。
貴族院改革は、前回1997年の総選挙時に、労働党が従来からの主張の一つとして公約に盛り込んだものであり、世襲貴族の登院権、議決権の廃止を内容とする。
1999年11月5日、英国貴族院では、世襲議員約750人のうち、互選で選出された912人を除く公侯伯子男爵の全ての貴族が、議員資格を剥奪された。
しかも、この重大な決定は、通常の法律(議会の単純多数決だけで決定される法律)一本で処理された。
一方、ロンドン市長選は、英国史上初の市長の公選であるという点とともに、S政権が廃止してしまったロンドン市議会の復活であるという点で意義深いものであった。
ロンドンには2000年5日まで市長なる職、また、ロンドン市庁なる行政機関、ロンドン市議会なる議会は存在しなかったが、S政権がGLC(ロンドン市議会)を1980年代半ばに廃止してしまったからである。
「高福祉・高負担」国家の改革に乗り出したS政権にとって、住民に身近なところで様々な福祉サービスや制度を増加させ、その財源は、国からの補助金や地方税の税率引き上げに依存する地方自治体の体質改善は急務であったし、運の悪いことに、ロンドンなど大都市圏は総じて労働党の牙城であった。
地方政府の廃止、それも東京、大阪に匹敵する大都市での地方政府の廃止となれば、日本では間違いなく憲法問題であるが、保守党の圧倒的多数の下、通常の法律手続きの中で淡々と進められた。
今回も、地方分権政策の一環としてロンドン初の公選市長を置くというB政権の政策について、労働党の圧倒的多数の下、いとも簡単に法律制定手続きがとられた。
もちろん、この二つの重大な課題について、テレビや新聞では多くの特集が組まれたりしていたが、英国の友人達は、揃いも揃って非常に淡々としていて、「日本では憲法問題で、大変なことなのだ」と水を向けなければ殆ど意識すらしていなかったことが印象的であった。
他の国であれば、憲法というものが国の最高法規として位置し、しかも通常の法律よりも改正について高いハードルが設けてあるから、タブーというか聖域が自然と形づくられることになるが、英国には変化についてタブーというものがない。
英国の場合には、議会における多数決によって変更が可能な成文法や慣習が憲法の一部を構成していることからも分かるように、時代時代の人々の良心と正義以外のハードルがないのである。
もちろん、東京に匹敵する規模を有するロンドン地方政府の廃止・制定といった国民生活に密接に関連する重大事が、そんなにコロコロと簡単に変わってしまっていいのだろうか、という根本的な疑問は残るし、あまりに変化に柔軟すぎて、保守党と労働党の政権交代の中で政策が行ったり来たりするために、英国病はもたらされたのだ、という当然の指摘もある。
近代保守主義の創始者の1人であるE氏は次のように述べている。
「変化のための手段を持たない国家は、その存在自体維持することができない」制度上、英国が変化ということに対して極めて柔軟だという事実ほど、現在の英国の強さを説明するものもないであろう。
多数の条約交渉に携わった経験を持つ英国の友人が、ある国連条約の改訂作業から戻ってきて私に言ったことがある。
「日本は、国内法の文脈の中でという一文をいたるところに挿入したがるが、条約の改正内容には全面的に賛成だと言いながら、国内法の許す範囲でという留保をつけるのでは、結果として何も変えるつもりはない、と言っているに等しいではないか」いくつか条約を集めてみたが、確かに、「国内法の文脈の中で」といった類の言葉が多く見受けられる。
もちろん、全て日本の意見で付け加えられた訳ではなく、恐らく、殆どの国がこの一文を入れることに賛成しているのであろう。
国際的に従うことを約束させられた取り決めであっても、国内法の体系上、それを完全な形で実現することが困難な事態は容易に想像できるからである。
ただ、この「国内法の文脈の中で」という語が無意味だと考えてしまう、こんなところにも、英国のコモンロー的感覚が鮮明に現れているのである。
「変化に柔軟な英国」というテーマとも関連するが、英国は変化に柔軟なだけではない。
変化の内容そのものが、日本とは大きく異なっている。
このことを、英国大蔵省による政府活動の政策評価体系の構築という例を引きながら考えてみよう。
英国では、行政の行う政策を評価する仕組み(以下、政策評価と呼ぶ)について、S政権以後、実に多くの試行錯誤が繰り返されてきた。
その中で、英国大蔵省は、国民の税金を各省庁が実施する政策の財源として配分する以上、その効果や効率性についてしっかりとしたチェックをしなければならないという意味で、政策評価に深くかかわってきた。
特に、1997年に労働党政権が誕生すると同時に、英国大蔵省は、総歳出見直しを行い、その結果を1998年7月に発表すると、矢継ぎ早に各省庁との間で、三年間の期限で、公共サービス同意、アウトプット・業績分析とを締結した。
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